お肌(皮膚)の役割は沢山ありますが、中でも重要なのは「身体を守ること」。物理的なショックから守る。化学物質や細菌などが体に入り込んだり、皮膚上で増えたりしないよう守る。体から必要以上に水分が逃げ出さないよう、不要な水分が体にしみ込まないよう、守る。そして美肌の大敵・紫外線からも守る。
こうした働きの最前線に立っているのは角質層。ほど良く固い角質のケラチンが外界からの物理的ショックを受け止め、体内が傷つかないようガードしています。そしてこのような刺激をずっと受け続けると、その部分の角質はより固く厚くなってゆきます。大人のかかとやヒジ、ヒザの皮膚が固くなったり、よく使う部位にタコやマメができたりするのはこういうわけ。また、真皮のコラーゲン線維やエラスチン線維、皮下脂肪もそのクッション性で衝撃を和らげてくれます。
健康な皮膚は弱酸性ですが、これがアルカリ性に傾くと細菌が繁殖しやすくなってトラブルの元に。そこで、表皮はアルカリ中和能力を使ってお肌のpHをコントロールし、細菌の活動を抑えます。そして紫外線を主に防いでくれるのは表皮のメラノサイト。紫外線を感じたメラノサイトがメラニン色素を分泌して「日焼け」することにより、真皮を紫外線の害から守っているのです。
「守る」以外にも、体温調節、知覚、免疫、抗酸化、貯蔵、呼吸、吸収などお肌はさまざまな役割をこなしています。
皮膚は体温を作り出すことはできませんが、体温を「保つ」ことには大きく係わっています。気温の影響をもろに受けて体温が乱高下しないよう角質層や皮下脂肪が断熱材となり、そして暑いときは毛細血管を広げて血流を増やして熱を逃がし、汗(エクリン汗)を出して気化熱で体を冷やす。逆に寒いときは毛細血管を収縮させ、立毛筋を縮めて鳥肌を立てて体表面の空気層を厚くすると同時に発汗を抑えるなどして熱が失われるのを防ぐのです。
熱い、冷たい、痛い、触った、押された、と最初に感じるのも皮膚です。これは痛・触・圧・冷・温、それぞれ違った刺激を受け止める神経終末器とその刺激が伝わる知覚神経が皮膚にくまなく張りめぐらされているから。神経終末器の一番端、皮膚の表面にある感覚点と呼ばれる部分が外界からの刺激をまず感じ取り、その刺激が神経終末器→知覚神経→脊髄神経節の順で伝わり、最終的には大脳に届けられるのです。ちなみに一番多い感覚点は痛みを感じる「痛点」で、その数は熱を感じる温点の何と100倍!これは「痛い=危険」であることが多いので、身を守るためにそうなったと言われています。
細菌などの異物は角質層バリアでシャットアウトされますが、皮膚に傷があるとそこから侵入されてしまうことが。そうなったら、今度は皮膚の免疫システムが発動、異物を無害化します。また、皮膚には肌トラブルや肌の老化促進の一因となる活性酸素やフリーラジカルを取りのぞく力もあり、これが皮膚の抗酸化作用です。
そのほか、皮膚は余分な栄養素を皮下脂肪として貯え、ほんのわずかですが呼吸することもできます(注1)。ちょっと変わった機能としては「情報伝達」もあります。「熱があるの? 顔が赤いよ」「手足がむくんじゃった。水分代謝が滞っているのかな」など、皮膚の色や質感の変化が体調不良を伝えてくれることもあるわけです。
最後に「吸収」。皮膚は基本的に排泄器官で吸収はあまり得意ではなく、水を始めとするほとんどの水溶性物質は角質層ではじかれてしまいます。しかし脂溶性の物質(ある種のビタミンなど)やホルモン剤などは例外的によく吸収し、その仕組みを応用したのが湿布薬や狭心症の貼り薬など。皮膚の表面や毛穴、皮脂腺などを通じて有効成分が体に入ってゆくようになっていて、このような吸収のしかたを経皮吸収といいます。
さて、お肌の働きをざっと見てきましたが、ここでひとつの疑問。角質層は水溶性物質を通さない...ということは、化粧水も吸収されないということ。お肌のお手入れに欠かせない化粧水、実は無駄なアイテムだったのでしょうか?!
注1 皮膚から取り入れられる酸素の量は肺呼吸の約180分の1、排出される炭酸ガス量は約220分の1。生命維持にはほとんど関与しない。
(2008年9月初出)