角質層と保湿

うるおったお肌はふんわり柔らかい。それは、角質細胞の主成分ケラチンが水を含むと柔らかくなる性質を持っていることが大きく関係しています。健康な角質層には10~20%の水が含まれていますが、その水分を守るため働いてくれるのが皮脂膜NMFそして細胞間脂質です。

保湿に欠かせないポイントは、
NMF、細胞間脂質、皮脂膜のバランス

角質層うるおいキープのカギは、角質細胞内にある天然保湿因子・NMF(Natural Moisturizing Factor)。自分の重さの4倍もの水を吸収し、一度つかんだ水はなかなか離さないので、NMFが多いほどうるおいも多いと言えます。人によって、また身体の部位によってNMFの量は違いますが、健康な角質細胞はその重さの約30%がNMFだとされています。

細胞間脂質 ~多重構造でうるおいキープ~

細胞間脂質の約半分はセラミドでできていて、その形はちょうどマッチ棒のようです。頭の部分は水となじみやすい親水部、そしてマッチの軸に当たる部分は油脂となじみやすい親油部。親油部は親油部同士、親水部は別の細胞間脂質分子の親水部とで水分をサンドイッチ。細胞間脂質・水分・細胞間脂質・水分...と、幾重にも層をなして角質細胞のすき間を埋め、うるおいを保ちます。

なによりも健やかな角質層を保つ!
それが、スキンケアの基本のキ

完璧な保湿コンビネーションかに見える角質層の保水機能ですが、実はまわりの影響を受けやすいのが欠点。保湿の要、NMFはアミノ酸PCA乳酸ナトリウム尿素などの保湿成分が集まったもの。そしてこの保湿成分というものが周りの湿度にとても影響されやすく、空気が乾くと肌から直に水分が奪われてしまいます。

ターンオーバーの乱れも、乾燥の一因。NMFの60%はアミノ酸(40%)とその代謝物(20%)ですが、ターンオーバーが乱れるとそのアミノ酸を作り出すケラトヒアリンが減り、そのうえ細胞間脂質も減ってしまうので肌のうるおいは急降下。つまり、ターンオーバーのリズムを崩さず、健康な角質層を維持することが保湿のカギといえます。具体的には、低湿度、冷え、そして強い紫外線、これらがターンオーバー不調を招く3大要因です。

保湿のしくみ図解

まず、低湿度。角質細胞同士をくっつけているのはデスモソームというタンパク質複合体ですが、それを分解するのがタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)。ところが、この酵素は湿度が下がりすぎると働きが悪くなります。デスモソームが分解されないと役目を終えた角質細胞も肌に残ったまま。そのような角質層は分厚くこわばり、水分もうまく行きわたらず…そしてその古い角質が、あるとき一気にかたまって剥がれるのがスケーリングというトラブル(注1)。そうして傷ついた肌の保水力はますます衰えてしまいます。

次に冷え。体が冷えると血行が悪くなります。するとお肌の働き全体が鈍り、ターンオーバーも遅れがちに。そして最後は強い紫外線。紫外線で肌に炎症が起きると、ターンオーバーが異常に速まります。すると形が不ぞろいでNMFも少ない未熟な角質細胞が肌表面へ出てきます。当然、そのような角質細胞はきちんと保水はできません。

間違ったケアが乾燥を招くこともあります。例えば、洗いすぎると肌が脱脂状態になってバリアが弱まり、細胞間脂質が流出。皮脂なら洗顔で落としても数時間で元通りになることが多いのですが、細胞間脂質のほうは回復するのに数週間もかかります。そうなると当然、角質細胞内のNMFにも影響が。皮脂分泌の盛んなタイプならともかく、もともと皮脂が少なかったり、高齢で皮脂分泌が衰えたりした肌を洗いすぎるのは、まさに百害あって一利なし。たとえどんなに「肌にやさしい」ボディソープや石鹸を使っていても、二度洗いなどで洗いすぎればそれは同じことです。

また、ある程度仕方のないことですが、老化も乾燥の一因。年を取るとどうしても皮脂やNMFなどは減ってゆき、そうなると角質は乾いてターンオーバーも乱れがちになります。

このように角質層の保水機能はとってもデリケート。では、毎日のお手入れを工夫することでその働きを少しでも補うことはできるのでしょうか?

注1 皮膚疾患などにより、角質層のターンオーバーが異常に盛んになって起こるスケーリングもある。

(2008年10月初出)

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