紫外線は美肌の敵、という認識はすっかり定着しています。では、紫外線はなぜ、どのようにしてお肌にダメージを与えるのでしょうか。大事なお肌を守るため、まずは敵である紫外線の正体をしっかり知ることにしましょう。
太陽の光は電磁波の一種です。電磁波というのは電気と磁気がお互いに影響しあってできる「波」のことで、テレビやラジオの「電波」、エックス線やガンマ線などの「放射線」、電子レンジが出す「マイクロウェーブ」もこの仲間。そしてその「波」が1回うねるごとにどのくらいの距離を進むかを表す言葉が「波長」です。
太陽光線は、波長の短い順に「紫外線」「可視光線(虹の7色)」「赤外線」に分けられます。今回取り上げるのはその中で一番波長の短い紫外線。紫外線には、殺菌消毒をしたり、体内でのビタミンD合成をたすけたり、血行や新陳代謝を盛んにする、といったはたらきがあります。
特にビタミンDはカルシウムを歯や骨に取り込むときに必要なので、日光浴をすると丈夫な体になれると長い間信じられてきました。戦中戦後の食糧難時代に育った子供たちの骨が弱かったことや、その頃は紫外線のもたらす害がよく知られていなかったこともこの風潮を後押ししました。
でも、その考えは今でははっきり否定されています。ビタミンDにしても体内のコレステロールから合成できるので、普通に食事を摂っていれば足りなくなることはありません。健康のためにとあえて日光を浴びる努力は、少なくとも今の日本では必要ないということです。
紫外線は、波長の長い順にUV-A(長波長紫外線)、UV-B(中波長紫外線)、UV-C(短波長紫外線)と呼ばれます。紫外線は波長が短いほど有害で、最も波長の短いUV-Cをまともに浴びると皮膚が焼けただれてしまいます。
それなのに私たちが太陽の下で問題なく暮らせるのは、オゾン層や大気圏が有害な紫外線の大部分をカットしてくれるから。それを逆の形で裏付けるのが、南極や北極周辺で報告される皮膚障害です。極地にあるオゾンホールから降りそそぐUV-Cがその原因ではと言われています。地球の健康とお肌の健康には深いつながりがあるのですね。
さて、地表に届いたUV-AとUV-B。2つともお肌に悪影響を与えますが、その性質には大きな違いがあります。
UV-BはUV-Aに比べて波長が短く、その大部分は表皮までしか入れません。だから影響があるのも基本的には表皮だけ...ですが、そのパワーはかなり強烈! 皮膚に炎症を起こして赤くする(紅斑)力がUV-Aの1000倍近くあるので、皮膚が赤くなってヒリヒリする、水ぶくれができるなどの激しい「サンバーン(日光性皮膚炎)」を引きおこします。
ヒリヒリが治まったあとも色素沈着を起こしたり、シミ・シワを作ったり、DNAに傷をつけて皮膚ガンを引きおこしたり。免疫を低下させるという悪さもします。たとえば、日光をたっぷり浴びたあとに口唇ヘルペスができることがあります。これは、過去に感染して神経節に隠れていたヘルペスウィルスが、免疫の低下した体内で勢い付いたために症状が出たのです。
一方、UV-Aにはそれほど急激な作用はありません。でも、UV-Bより波長が長いので表皮の一番下にある基底層や、真皮にまで達することができます。
基底層に達したUV-Aに刺激されたメラノサイトは、メラニン色素を大量生産。表皮中に黒い色をばらまいて肌を褐色にする「サンタン」を進めます。サンタンにはサンバーンのようなはれや痛みはありませんが(注1)、メラニン色素が多すぎるとシミができやすくなってしまいます。
また、UV-Aは真皮に入り込めるので、コラーゲンやエラスチンにも悪い影響を与えます。UV-Bほど激しくはないものの、深く静かに肌ダメージを進めるのがUV-Aの特徴です。
注1 UV-Bがサンバーンを引きおこし、その炎症反応が刺激となってサンタンが起きることもある。
次の頁では、紫外線とメラニン、シミの関係についてご説明します。
(2009年5月初出)