防腐剤と殺菌剤。「どちらも雑菌をやっつけるのだから同じようなもの」と考えてしまいそうですが、実はそうではありません。どのように違うのか、それらのはたらきや成分などとあわせて見てゆきましょう。
防腐とは微生物によって製品が傷むのを防ぐ技術で、そのために使われる薬剤が防腐剤です。「防腐剤無添加」をアピールする製品も増えてきましたが、それでもまだまだ防腐剤配合のものが多いのが現状です。
防腐剤が配合される理由のひとつに、化粧品の成分は微生物のエサになりやすいという点があげられます。水や油脂の中にグリセリンやアミノ酸誘導体、糖類などが入る化粧品は、細菌やカビにとっては絶好の繁殖スペースです。ある種のカビはアフラトキシンという強い毒を作りだすこともあり、そういうものが発生するかもしれないものを「常温保存可」にしなければなりません。
化粧品の消費期限が非常に長いということもあります。薬機法(旧:薬事法)には「基本的に化粧品は製造又は輸入後、適切な保存条件のもとで3年を超えて性状及び品質が安定なものでなければならず、3年以内に変質する恐れのあるものは「使用期限」を表示しなければならない」とあります。これは、よほどひどい条件で保管しないかぎり未開封で3年間品質を保たなければいけないということ。さらに、封を切ってからは手や空気を介して製品に持ちこまれる微生物への対策もしなければなりません。これらの条件をクリアするのにもっとも効果的で手軽、かつ低コストなのが防腐剤の配合、というわけです(注1)。
防腐剤が特に必要とされるのは、クリームや乳液、ファンデーション、それにアイメイク製品です。クリームや乳液、リキッドファンデーションは水分油分が多いので微生物が繁殖しやすいんですね。パウダーファンデーションも水分こそ少なめですが、皮脂や皮膚のタンパク質が付いたパフでくり返し製品をこするので、製品が不衛生になりやすいのです。
アイメイク製品は目の粘膜に触れるので、とくに防腐に気を遣わなければなりません。粘膜には角質層のようなバリア機能がないため、製品が不潔だと目の粘膜から病原性細菌に感染してしまうかもしれないのです。また、ファンデーションと同じくチップや筆が皮膚の汚れを製品に移してしまう恐れもあります。「メイク小物は清潔に」とよく言われるのは単に見た目や使い勝手だけの問題ではないということですね。
化粧品に使われる代表的な防腐剤には以下のようなものがあります。(カッコ内は全成分表示における表示名称)
1.パラオキシ安息香酸エステル(表示名称:パラベン)
化粧品にもっともよく使われる防腐剤のひとつ。抗菌性が強く、広範囲の微生物に効果がある。毒性が比較的低く、皮膚刺激や過敏症なども少ない。旧表示指定成分。以下の種類がある。
メチルパラベン(methyl 4-hydroxybenzoate)
エチルパラベン(ethyl 4-hydroxybenzoate)
プロピルパラベン(propyl 4-hydroxybenzoate)
イソプロピルパラベン(isopropyl 4-hydroxybenzoate)
ブチルパラベン(butyl 4-hydroxybenzoate)
イソブチルパラベン(isobutyl 4-hydroxybenzoate)
ベンジルパラベン(benzyl 4-hydroxybenzoate)
※化粧品の全成分表示では、原料中に上記のパラベン類が複数含まれていても「パラベン」とひとくくりにして表示されることが多い。
2.安息香酸(表示名称:安息香酸)
香料として用いられる樹脂の一種、安息香(ベンゾイン)の中に安息香酸のエステルが多いことからこのように名づけられた。水に非常に溶けにくい。pH5以上になると抗菌性がなくなる。殺菌作用は弱いが静菌作用は強く、食品にも使われる。旧表示指定成分。
3.安息香酸ナトリウム(表示名称:安息香酸Na)
安息香酸とナトリウムがエステル結合したもの。pH8以上になると抗菌性がなくなる。水に溶けやすく、清涼飲料水などの防腐にも使われる。旧表示指定成分。
4.デヒドロ酢酸ナトリウム(表示名称:デヒドロ酢酸Na)
水に溶けやすく、カビ、酵母、好気性菌への静菌作用がある。pHが低い(酸性)環境で効果が高い。有機物によって防腐性能が影響されることが少ない。食品にも利用される。旧表示指定成分。
5.ヒノキチオール(表示名称:ヒノキチオール)
ヒノキ油、ヒバ油、ウェスタンレッドセダー油の中に含まれる殺菌成分。1936年にタイワンヒノキから発見・命名された。合成由来のものも広く使用されている。ヒバ特有の香気があり、広い範囲の微生物に強い抗菌性を発揮する。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
6.フェノキシエタノール(表示名称:フェノキシエタノール)
抗菌力は弱いが、パラベンが効きにくいグラム陰性菌に有効。シャンプーやクリームなどに利用される。
このほかの防腐剤の種類やその配合規制についてくわしくは、下記のリンク先も参照してください。
化粧品基準(別表第2、第3)(pdf 189 KB)
注1 防腐剤を使わないで防腐するには、製造現場をできるかぎり無菌に近づける、抗菌作用のあるアルコール類を多めに配合する、早く使い切れるように容量を小さくする、容器に詰めてから高温高圧をかける、製品が空気に触れない容器を採用する、使用期限を短めに設定して冷蔵保存するようユーザーにも注意を促すなどの方法がある。
●防腐剤の配合目的と効果効能
殺菌とはその名のとおり「細菌(微生物)を殺すこと」で、そのために使われる薬剤が殺菌剤です。防腐剤との一番の違いは、防腐剤が「外部から混入した微生物の増殖を抑えることで製品が傷むのを防ぐ」ものであるのに対し、殺菌剤は「ターゲットとする微生物を短期間で死滅/減少させる」ために使うものだという点です。
化粧品原料としては、薬用ハンドソープやニキビケア用のスキンケア製品、フケ防止用のヘアケア製品や体臭を抑えるためのデオドラント製品などに利用されます。いずれも、トラブルの一因と考えられている微生物を死滅させて感染症の拡大を防いだり、ニキビや体臭の悪化を防いだりするのが目的です。
ただ、化粧品に殺菌剤を配合して狙ったとおりの効果を上げるのはなかなか難しい面もあります。殺菌剤が化粧品にうまく溶けこまない、本来反応すべき微生物ではなく化粧品の成分や皮膚のタンパク質と反応してしまうなどのケースも多いためです。
化粧品によく使われる殺菌剤には以下のようなものがあります。(カッコ内は全成分表示における表示名称)
1.イソプロピルメチルフェノール(表示名称:シメン-5-オール)
広い範囲の微生物やカビに高い効果を示す。皮膚刺激性がほとんどなく、ハンドソープ、化粧品、石鹸、育髪トニック、デオドラント、ハップ剤などに使われる。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
2.塩化ベンザルコニウム(表示名称:ベンザルコニウムクロリド)
陽イオン界面活性剤(カチオン性界面活性剤)の一種。殺菌用逆性石鹸に配合され、「オスバン」「ヂアミトール」などの商品名で販売される。グラム陽性・陰性細菌に効き、結核菌やウイルスには効かない。石鹸など陰イオン界面活性剤と混ぜると効果が下がる。ニキビケア製品に配合されることもあり、アルコールに溶かしたものは化粧品製造現場の衛生管理にも役立つ。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
3.塩化ベンゼトニウム(表示名称:ベンゼトニウムクロリド)
陽イオン性界面活性剤(カチオン性界面活性剤)の一種。強い殺菌作用、防臭作用があり、シャンプー、デオドラント製品、洗顔料などに配合される。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
4.塩酸クロルヘキシジン(表示名称:クロルヘキシジン2HCl)
合成の殺菌剤で、ヒビテンともいう。広い範囲の微生物に対し、強力な抗菌作用を保ち続けることができる。消毒液、軟膏、座薬などに広く利用されるほか、ワキガの原因となる皮膚常在菌を抑える目的でデオドラント製品にも配合される。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
5.グルコン酸クロルヘキシジン(表示名称:グルコン酸クロルヘキシジン)
グラム陰性菌、陽性菌、どちらにも有効で、広い範囲の微生物に効き目のある強力な殺菌剤。効果が長続きし、皮膚殺菌消毒剤などに使われる。歯周病にも効果があるとされ、マウスウォッシュに配合されることもある。過去にアナフィラキシーショックを引きおこしたケースが報告されたため、日本では口腔以外の粘膜への使用は禁じられている。アルコールに溶かしたものは化粧品製造工場の衛生管理に使われる。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
6.クロルキシレノール(表示名称:クロルキシレノール)
ブドウ球菌や大腸菌に有効。学校や公共施設の手洗い場などでよく見られるハンドソープ原液にも多く用いられている。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
7.クロルフェネシン(表示名称:クロルフェネシン)
抗真菌薬に配合されるほか、筋弛緩薬にも利用される。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
8.サリチル酸(表示名称:サリチル酸)
医薬品、化粧品、食品などの防腐剤として広く利用されていたが、現在はあまり使われなくなってきている。化粧品では、フケ取り用・育毛用のヘアトニックなどに配合。殺菌防腐作用のほかに角質層を溶かす作用もあるため、比較的軽いニキビなどにも有効とされる。旧表示指定成分。
9.サリチル酸ナトリウム(表示名称:サリチル酸Na)
殺菌力は弱め。解熱・鎮痛・抗炎症などの作用もある。糊の防腐剤としても利用される。旧表示指定成分。
10.トリクロロカルバニリド(TCC)(表示名称:トリクロカルバン)
グラム陽性菌に有効。液体絆創膏やデオドラント製品に利用される。フケやかゆみを抑える成分として薬用シャンプーに配合されることもある。旧表示指定成分。化粧品基準では「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に分類される。
11.トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル(表示名称:トリクロサン)
特にブドウ球菌などグラム陽性菌への静菌力が強い。カビなどの真菌類にはやや効果が弱い。 薬用石鹸、シャンプー、ハミガキなど、医薬部外品で殺菌作用をうたっている製品に配合されることが多い。
12.フェノール(表示名称:フェノール)
コールタールから分離して作られる殺菌剤で、18世紀から消毒薬として利用されている。毒性および腐食性があり、皮膚を傷めるため毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。水で薄めると強力な消毒・殺菌剤として使える。旧表示指定成分。
このほかの殺菌剤の種類やその配合規制についてくわしくは、下記のリンク先も参照してください。
化粧品基準(別表第2、第3)(pdf 189 KB)
●殺菌剤の配合目的と効果効能
2016年12月改訂(2012年7月初出)