界面活性剤 その1

界面活性剤化粧品にとってももっとも大事な原料のひとつ。顔や体の汚れを洗い流す、乳化分散可溶化の作用で化粧品の使用感をよくするなど、さまざまな場面で活躍しています。

界面活性剤は、分子の中に水となじみやすい親水性の部分(親水基)と、油となじみやすい親油性の部分(親油基)両方を持っているため、水と油をなじませることができます。このような分子のことを両親媒性分子と呼びます。

界面活性剤には2種類あります。ひとつ目は、水に溶けたときに電離してイオンになる「イオン性界面活性剤」。ふたつ目は、水に溶けてもイオンにならない「非イオン(ノニオン)性界面活性剤」です。そして、イオン性界面活性剤はさらに3種類に分けられます。その分け方のポイントは、親水基の性質。親水基がマイナスに帯電するのが「陰イオン(アニオン)性界面活性剤」、プラスに帯電するのが「陽イオン(カチオン)性界面活性剤」、そして陰イオンと陽イオンどちらにも電離することができるのが「両性界面活性剤」となります。

イオン性界面活性剤 陰イオン(アニオン)性界面活性剤 水に溶けたとき電離して親水基がマイナスに帯電
陽イオン(カチオン)性界面活性剤 水に溶けたとき電離して親水基がプラスに帯電
両性界面活性剤 周りがアルカリ性なら親水基がマイナスに帯電して陰イオン性に、周りが酸性なら親水基がプラスに帯電して陽イオン性になる。
非イオン(ノニオン)性界面活性剤 - 水に溶けてもイオンにならず、帯電しない

界面活性剤はとてもたくさんあり、同じ種類の界面活性剤でも使い道が異なっていることも少なくありません。そのため、ほかの原料の解説とは少し形式が違いますが、まずは界面活性剤の配合目的と効果効能を先に書き、種類ごとの名称やはたらきなどは後で詳しくご紹介することにしましょう。

●界面活性剤の配合目的と効果効能

  1. 水溶性原料と油溶性原料を混ぜてクリーム乳液タイプの化粧品を作る(乳化)
  2. 化粧水やヘアケア製品などに、色素や有効成分を溶かし込む(可溶化)
  3. カラーメイクアイテムに顔料などの粉体を分散させる(分散)
  4. 顔や体、髪などの汚れを浮かせて洗い流す(洗浄)
  5. 浴用剤や洗顔剤などがよく泡立つようにする(発泡・起泡)
  6. ほお紅やフェイスパウダーなど粉状のアイテムをしっとりとさせ粉飛びを抑える
  7. 静電気を防ぐ
  8. 製品中で雑菌類が増えるのを抑える
  9. ヘアケアアイテムに配合され、髪に塗布したときにツルツルした感じを与える

※界面活性剤の乳化・分散・可溶化作用について詳しくは、「化粧品と界面活性剤」を参照のこと。

界面活性剤といえば、まずはコレ
陰イオン(アニオン)性界面活性剤

陰イオン(アニオン)性界面活性剤は、水に溶けて電離したときに親水基の部分がマイナス(陰性)の電気を帯びるもので、私たちがもっともよく消費する界面活性剤です。衣類やお皿、体などを洗う洗浄剤として、また化粧品作りでは乳化剤、分散剤、可溶化剤として利用されます。

化粧品によく使われる陰イオン性界面活性剤には以下のようなものがあります。

1.高級脂肪酸石鹸
いわゆる「石鹸」で、陰イオン性界面活性剤の代表格。古代ローマの時代からすでに洗浄剤として利用されていました。石鹸以外の界面活性剤(合成界面活性剤)と比べて生分解が格段に早いので環境への負荷が低く、PRTR法による監視も必要なしとされています。ステアリン酸やオレイン酸などの高級脂肪酸と強アルカリが反応してできたもので、アルカリに水酸化ナトリウムを使うとナトリウム石鹸(固形)が、水酸化カリウムを使うとカリウム石鹸(液体)ができます。洗浄剤としてのほか、乳化剤・乳化助剤としても使われます。

水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの代わりに、アルカリ性アミノ酸のアルギニンやリジンを使ったものを「アミノ酸石鹸」と称することがあり、そのような名前で販売される製品もあります。ですが、「高級脂肪酸石鹸」といえば通常はナトリウム石鹸、カリウム石鹸のことを指します。

2.高級アルコール硫酸エステル塩(AS)
1928年にドイツのベーメ社によって開発された合成界面活性剤で、世界初の家庭用合成洗剤の原料になりました。天然の動植物油脂から作られた高級アルコールに濃硫酸を作用させて作られます。低温でよく溶け、泡立ちがよいのでハミガキやシャンプーによく使われます。PRTR法による第一種指定化学物質。

3.アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)
石油系界面活性剤のひとつで、ASに比べて皮膚や粘膜への刺激が少ないとされます。シャンプーやボディソープに利用され、特にシャンプーにはAS以上によく使われています。アルキル基(親油基)が長いものは乳化剤として、アルキル基が短いものは低温でもよく水に溶けて泡立ちがよいのでシャンプーのベース素材やハミガキの発泡剤として利用されます。PRTR法による第一種指定化学物質。

4.N-アシルグルタミン酸塩
グルタミン酸と脂肪酸が結合したアシルグルタミン酸を塩基(アルカリ)で中和したもの。pH5.4~7程度で皮膚や粘膜に対して刺激が少なく、「アミノ酸系」洗浄料として、シャンプーや洗顔料、ボディソープなどに幅広く使われています。pHを下げ、刺激を少なくする目的で、高級脂肪酸石鹸に混ぜるという使い方もされています。

グルタミン酸に結合させる塩基や脂肪酸の種類によってpHや起泡性といった性質が少しずつ異なります。たとえばモノナトリウム塩の水溶液はよく泡立つうえに皮膚や粘膜に刺激が少ないので、ベビー用や皮膚炎患者用の石鹸にも配合されます。ジナトリウム塩はモノナトリウム塩よりpHが高くなりますが、モノナトリウム塩と一緒に洗顔クリームやボディソープなどに配合されます。そのほか、カリウム塩、トリエタノールアミン塩が洗浄目的で使われています。

5.リン酸エステル塩
洗顔料やシャンプーなどによく使われる界面活性剤。高級アルコールや、そのポリオキシエチレン誘導体にリン酸基(H2PO4-)を付け加えて作ります。リン酸エステル塩にはモノエステル、ジエステル、トリエステルの3種類がありますが、一番水に溶けやすいのはモノエステルで、化粧品に配合されるのも多くはこれです。

中性なので、アルカリ性の石鹸や洗剤よりも肌への刺激が少ないとされ、「マイルドでお肌にやさしい」と宣伝される製品によく配合されています。ですが、リンは植物の三大栄養素のひとつ。河川への排出が増えると赤潮や青潮などの富栄養化問題が懸念されます。(石鹸百科「合成洗剤と富栄養化」別ウィンドウで開きます参照)

得意技はリンス&殺菌
陽イオン(カチオン)性界面活性剤

水に溶けて電離したときに、親水基の部分がプラス(陽性)の電気を帯びるのが陽イオン(カチオン)性界面活性剤です。マイナスに帯電する陰イオン性界面活性剤とは逆なので「逆性石鹸」とも呼ばれます。陰イオン性界面活性剤のような乳化・分散・可溶化、洗浄の力はほとんどありません。化粧品での主な使い道はヘアリンス、コンディショナーなどですが、そのほかに殺菌剤としても利用されます。

毛髪や細菌の体はマイナスに帯電するタンパク質やセルロースが主成分です。そこにプラスに帯電した陽イオン性界面活性剤が近づくと、プラスとマイナスが引きあって毛髪や細菌の表面が陽イオン性界面活性剤で被われます。被われた表面はその性質が変わり、その結果、毛髪ならツルッとした手ざわりになり、細菌なら体表面が変質して破壊(殺菌)されるのです。

化粧品によく使用される陽イオン性界面活性剤には、以下のようなものがあります。

1.塩化アルキルトリメチルアンモニウム
ヘアリンスやヘアトニック、デオドラント製品などに配合される。PRTR法による第一種指定化学物質。

2.塩化ジアルキルジメチルアンモニウム
ヘアリンスやヘアトニック、デオドラント製品などに配合される。

3.塩化ベンザルコニウム
薬用石鹸などに殺菌成分として配合されることが多い。頭皮に刺激があるのでヘアリンス向きではない。

イメージ


まわりに合わせて性質を変える
両性界面活性剤

両性界面活性剤とは、陽イオンになる部分と陰イオンになる部分、両方を分子の中に持っている界面活性剤のことです。まわりがアルカリ性なら親水基が陰イオン性(マイナスに帯電)に、酸性なら陽イオン性(プラスに帯電)になります。陰イオン性のときには洗浄力を、陽イオン性のときは温和な殺菌力を発揮します。両方の能力を一度に発揮できたら便利なのですが、残念ながら陰イオン性のときに殺菌力はありません。陽イオン性のときには多少泡立つくらいの界面活性作用がありますが、汚れ落としに使えるほど強力ではないので、殺菌と洗浄の両立は難しいといえます。

陰イオン性、陽イオン性のどちらにもなれるので、いろんな場面で活躍できます。たとえば一種類の界面活性剤だけでは泡立ちがよくないといったとき、両性界面活性剤を加えて泡立ちを補助させるという便利な使い方もあります。皮膚刺激性や毒性はほかの界面活性剤より低めとされ、シャンプーや洗顔料の泡の安定剤として、また帯電防止剤としてヘアリンス、トリートメント、ヘアスプレーなどに利用されます。

化粧品によく使用される両性界面活性剤には、以下のようなものがあります。

1.ベタイン型
もっとも簡単な構造の両性界面活性剤。水に透明に溶け、洗浄力が強く、よく泡立つ。

2.イミダソリン型
両性界面活性剤の中では刺激が少なく、ベビーシャンプーによく利用される。

3.レシチン
大豆油や卵黄油の中に含まれる天然の両性界面活性剤。水に溶けないのでものを「洗う」ことはできないが、乳化剤としてはかなり優秀。ただし、時間が経つと少し臭ってくることがある。

(2011年12月初出)

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