「界面活性剤」と聞くと、家事用の洗剤や洗顔フォームなどが思い浮かびます。界面活性剤は汚れを包みこんで浮かせるはたらきがあるので洗剤類によく使われるんですね。でもそのほかの製品、たとえば口紅やファンデーションにも界面活性剤が入っていることがあります。なぜでしょう? 実は、界面活性剤は「洗う」ほかにもいろんな作用があって、それが化粧品の使用感向上に役立っているのです。
界面活性剤とは「物質の界面にはたらきかけて、本来はなじまないもの同士をなじませることができる物質」です。「界面」とはもの同士の境目のこと。完全に均一な液体・固体・気体(注)が、同じく均一なほかのものとぴったりくっついたときにできます。たとえばコップの中で分かれた水と油の境目も界面です。これは液体と液体の界面ですが、液体と固体(例:カラミンローション内の化粧水とパウダー)、固体と固体(例:数種類の粉が混ざったボディパウダー)の界面もあります。また、気体と接している液体・固体の界面は特に「表面」と呼ばれます。
これらの界面には、界面の面積をできるだけ小さくしようとする「界面張力」がはたらいています。水の「表面張力」も界面張力の一種です。その界面張力を大きく弱めることができるのが、界面活性剤。界面張力が弱まると、「同じものでまとまろう」とする力がゆるみ、まわりのものとなじみやすくなります。化粧品作りでは多種類の原料をなじませる必要があるので、この作用はとても便利なのです。
界面活性剤には、「イオン性界面活性剤」と「非イオン性界面活性剤」の2つがあります。水に溶けたとき、分子の一部がイオンになるか、ならないか、で分けているのですね。そしてイオン性界面活性剤は、さらに「陽イオン性界面活性剤」「陰イオン性界面活性剤」「両性界面活性剤」に分けられます。ちなみに石鹸と、合成洗剤の多くは陰イオン性界面活性剤です。(編注:石鹸百科「界面活性剤とは」)
天然の界面活性剤もあります。レシチンやサポニンなどはその代表格。卵黄レシチンはマヨネーズ作りで有名ですね。また、界面活性剤のなかには食品添加物の認可を受けているものもあります。油と水を乳化するはたらきを生かして、アイスクリーム、コーヒーフレッシュ、ホイップクリーム、ドレッシングなどを作るのに利用されます。
さて、化粧品の世界で利用される界面活性剤のはたらきとはどんなものでしょう。以下に、主なものを挙げてみます。
【洗浄】
界面活性作用により汚れを取り去り、身体の清潔を保つ。洗顔料やシャンプーなど。
【起泡】
汚れを包みこむ。製品を泡状にすることで使用感や仕上がりを高める。洗顔料、ヘアムースなど。
【乳化】
油溶性の液体と水溶性の液体をムラなく混ぜあわせる。使用感の向上。角質層に浸透しやすくする。乳液やクリームなど。
【分散】
顔料や紫外線反射剤などの粒子を製品中にムラなく均一に散らばらせて機能性を上げる。ファンデーションや日焼け止めなど。
【可溶化】
油溶性の成分を水溶性の液体に透明に混ぜこむ。使用感の向上。角質層に浸透しやすくする。油溶性ビタミン入りの化粧水など。
【帯電防止】
身体や髪、衣類に陽イオン性界面活性剤を付着させて静電気を空気中に逃がす。ヘアリンスや静電気防止スプレーなど。
【殺菌】
陽イオン性界面活性剤を細菌の体(タンパク質)に吸着させて細菌の体を壊す。逆性石鹸など。
界面活性剤入りの製品が意外に多いので、驚いたり不安になったりする方もいらっしゃるかも知れません。基本的に、洗う以外の目的で配合される界面活性剤の量は少なく、健康なお肌に影響を与える心配はほとんどないのです。でも、肌質や体調によっては避けたいこともありますね。そういうときはパッケージの全成分表示を見ると、界面活性剤を使っているかどうか確かめることができます。
次のページでは、上記の使い道の中から化粧品に特に欠かせない「乳化・分散・可溶化」についてさらに詳しく見てゆきます。
注 この場合、「液体」「固体」「気体」ではなく、「液相」「固相」「気相」と書くのがより正確です。界面は完全に均一なもの(相)同士の境目にできるもの。たとえば牛乳は「液体」ですが、「液相」ではありません。牛乳を拡大すると、水溶性の成分中に脂肪の粒が混ざっているので完全に均一とは言えないのです。しかしそこまで厳密な理解はここでは必要ないので「液体」「固体」「気体」という表現にとどめました。
(2011年7月初出)