メイクするということは、顔を色で演出することともいえます。TPOでメイクの色調を変えたり、ちょっと気分が沈んだときには明るめの口紅で自分を元気づけたり。似合わないカラーを使ったら「顔色が良くないよ?」と心配されることも。このように、色は化粧品においてとても大切な要素といえます。
化粧品に色を付ける成分のことを「色材」と呼びます。皮膚や毛髪に色を付けて美しく見せるほか、化粧品そのものの見た目を良くして商品的価値を高めるため使われることもあります。色材は「無機顔料」「タール色素(有機合成色素)」「天然色素」の3つに大きく分けられます。このほか、キラキラとした輝きを化粧品に与える「光輝性顔料」「真珠光沢顔料」も色材の仲間です。
色材原料を使う目的や、効果効能には以下のようなものがあります。
●色材類の配合目的と効果効能
顔料とは、水や油に溶けない粉末状の色材のこと。その中で分子構造中に有機物を含まないものを特に無機顔料と呼びます。鉱物を微粉末状に砕いたり、化学的に合成したりして作られます。金属の酸化物、水酸化物、硫化物、ケイ酸塩が一般的ですが、ほかに特殊なものとしてはフェロシアン化合物もあります。光にさらされても色あせしにくく、溶媒やその他の薬品類と接しても性質が変わらないものが多いので化粧品用色材として重宝されています。
1.白色顔料
1)酸化チタン(TiO2 表示名称:酸化チタン)
イルメナイトというチタン鉄鉱(FeO・TiO2)を原料にして作られる白色顔料。おしろい、口紅、ファンデーションやサンスクリーン、ネイルエナメルなどのメイクアップアイテムに幅広く用いられます。結晶の構造によってアナターゼ型とルチル型に分けられますが、化粧品に配合されるのはルチル型がほとんど。ルチル型のほうが被覆力(ものを被う力)、隠ぺい力(塗りつぶす力)に優れているというのがその理由です。
酸化チタンは優れた紫外線散乱剤ですが、色が真っ白なので肌の上で白浮きするのが欠点。でも、近年開発された酸化チタンの中には白浮きしないものもあります。一次粒子の直径が0.015~0.05μmしかない酸化チタンがそれです。0.015~0.05μmというのは光の波長の1/10くらいしかなく、ここまで粒が小さいと可視光線を反射できません。光の反射がないと肉眼は色を認識できないので白い色も見えない、すなわち白浮きしない、というわけです。この性質を利用して、白浮きしにくいサンスクリーンやファンデーションなどによく利用されます。
2)酸化亜鉛(ZnO 表示名称:酸化亜鉛)
金属の亜鉛に強い熱をかけて酸化したり、炭酸亜鉛という化合物を熱分解したりして作る白い顔料。被覆力が優れているので白色顔料としてメイクアップ製品に。また、収れん・消炎作用があるので日焼け後に使うカラミンローションにも配合されています。
2.体質顔料
色を付けるためというよりは、製品の形を保つために使われる顔料のことです。そのほか、製品の肌への付着性、伸び、光沢などを調節する目的もあります。
1)タルク(Mg3Si4O10(OH)2 表示名称:タルク)
滑石(かっせき 粘土鉱物の一種)を微粉末になるまで砕いたもので、主成分は含水ケイ酸マグネシウム。肌の上でスルスルとよく滑り、昔からおしろいやアイシャドウ、ベビーパウダーなどの主成分として用いられてきました。
産地によっては微量のアスベストが含まれる恐れがあり、1987(昭和62)年には旧厚生省(現厚生労働省)から「ベビーパウダーの品質確保について」という通知が出されました。それ以後、化粧品類にはアスベストが認められないタルクを使うよう規制されています。
「ベビーパウダーの品質確保について」(PDF 85.2 KB)
2)カオリン(H2Al2O8Si2・H2O 表示名称:カオリン)
白陶土(はくとうど)とも呼ばれる、天然の含水ケイ酸アルミニウム。長石や雲母などが風化したもので、油や水をよく吸い、皮膚への付着性も良いのが特徴です。おしろい原料として長く利用されてきましたが、滑りが良くないので次第に使われなくなってきています。基礎化粧品ではクレイの吸着力を生かしたフェイスパックや洗顔料に配合され、化粧品以外では磁器の原料としても有名です。
3)マイカ(表示名称:マイカ)
天然の含水ケイ酸アルミニウムカリウムで、一般的には白雲母を微粉末状に砕いたものが化粧品原料となります。体質顔料の一種ですが、肌にキラキラとした輝きを添える光輝性顔料でもあります。絹のような光沢がある絹雲母という種類から作ったものは特に「セリサイト」と呼ばれ、固形白粉類に多用されます。マイカよりもお肌への感触がソフトで透明感がある、パール感(真珠様光沢)があるので肌を艶やかで輝くように見せる効果があるというのがその理由です。
4) 無水ケイ酸(SiO2 表示名称:シリカ)
皮脂や汗をよく吸収する、製品に配合するとべたつきを抑えられる、光が乱反射するので毛穴を目立たなくする効果があるなど、メリットの多い原料。ファンデーションや日焼け止めによく使われます。化粧品に用いられるのは二酸化ケイ素を96%以上含むもの。不定形や球状など種類によって形はいろいろですが、化粧品原料としては球状の粒子表面に小さな穴がたくさん空いている形(多孔質)のものが多く用いられます。
5)炭酸カルシウム(CaCO3 表示名称:炭酸Ca)
重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウム(沈降炭酸カルシウム)の2種類があり、化粧品に利用されるのは軽質炭酸カルシウムのほう。でも、実は化粧品にはあまり多く使われる原料ではありません。化粧品以外では、グランド用ライン引きパウダー、チョークや消しゴムなど、また医薬品では錠剤の基剤、胃酸過多に対する制酸剤などに利用されます。
6)炭酸マグネシウム(MgCO3 表示名称:炭酸Mg)
重質炭酸マグネシウムと軽質炭酸マグネシウム(沈降炭酸マグネシウム)の2種類があり、化粧品に使われるのは軽質炭酸マグネシウムのほう。菱苦土石(りょうくどせき)、別名マグネサイト(magnesite)を焼いてから化学的に処理して作られます。おしろいの基剤としてのほか、化粧水のろ過や香料の匂いを付ける目的で使われることもまれにありますが、化粧品原料としての利用はあまり多くありません。医療分野では緩下剤として使われます。
3.有色顔料
カラフルな無機顔料のことです。有機顔料(タール色素の一種)ほど色鮮やかではありませんが、耐光性、耐熱性に優れ、変色・退色しにくい特長があります。
1)酸化鉄(表示名称:酸化鉄)
ファンデーションなどのメイクアップ製品に広く用いられている黄、赤、黒の顔料。硫酸第一鉄(FeSO4)を焼いて作りますが、そのときの条件(温度、時間、空気吹込量)によってできあがりの色を変えることができます。焼成温度が低いほど黄色が強くなり、温度が高くなるにつれて赤~黒へと変化します。
光、熱、薬品の影響も受けにくい優れた顔料ですが、油分の酸化を促進するという欠点があります。対処法としては、製品に酸化防止剤を加える、酸化しにくい油を使うなどがあります。
2)グンジョウ(C18Fe7N18 表示名称:グンジョウ)
青色~赤紫色の顔料。主にアイシャドウなど眉目製品に用いられる顔料。カオリン、ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、硫黄、還元剤を混ぜあわせ、700~800℃で焙焼して作ります。原料の配合比率や焙焼温度の調整によって色の違いを出します。
硫化物のため酸に弱く、お酢程度のうすい酸(pH4~5)でも分解して退色し、硫化水素を発生します。ただし、これはグンジョウが酸性の「水溶液」と出会ったときに限って起きる現象。グンジョウは水分をほとんど含まない製品に配合されるのが一般的で、たとえ水分を含むリキッドファンデーションに配合された場合でも、ほかの原料との調合により自然と中性~アルカリ性になります。よって、酸の水溶液による退色や硫化水素発生を心配する必要はほとんどありません。
3)コンジョウ(表示名称:コンジョウ)
青色~紫青色の顔料で、グンジョウと同じくメイクアップ製品に用いられます。日光や酸には強く、アルカリの水溶液と出会うと色があせます。
4)酸化クロム(Cr2O3 表示名称:酸化クロム)
酸化クロムⅢのこと。暗緑色の粉末で、無水クロム酸(酸化クロムⅥ)を焙焼して作ります。化学的な性質が非常に安定で耐熱性にも優れ、メイクアップ製品全般に多用されています。
5)水酸化クロム(Cr2O(OH)4 表示名称:水酸化クロム)
青緑色の顔料。酸化クロムより明るい緑色が出ます。原料は重クロム酸カリウム。耐光性、耐酸・耐アルカリ性にも優れていて、酸化クロムと同じくメイクアップ製品に重宝されます。
6)マンガンバイオレットH4MnNO7P2 表示名称:マンガンバイオレット)
薄紫~暗紫色の顔料。酸化マンガンとリン酸水素二アンモニウムとを混ぜたものに熱を加えて作ったピロリン酸マンガンアンモニウムが成分です。
隠ぺい力が大きく、アイシャドウなど眉目化粧品に用いられます。酸・アルカリの水溶液に出会うと変色しますが、マンガンバイオレットの用途は水分を含まないアイシャドウがほとんどなので、製造時も使用時も酸やアルカリを気にする必要はまずありません。
7)カーボンブラック(表示名称:カーボンブラック)
天然ガスや液状炭化水素が不完全燃焼したり、熱分解されたりしたときにできる炭素から成る黒色顔料。アイブロウやアイライナー、マスカラなどに利用されます。製法によって「ファーネスブラック」と「チャンネルブラック」に分けられますが、ファーネスブラックからは発がん性物質である3,4-ベンツピレンが検出されるため、日本ではチャンネルブラックを使用するよう規定されています。
4.光輝性顔料・真珠光沢顔料
金属性の光沢あるいは真珠様光沢、いわゆる「パール感」を演出する顔料のことです。光の当たる角度やほかの原料との配合具合によってさまざまな色の光を放つことができます。
1)雲母チタン(表示名称:酸化チタン、マイカ)
微細な薄片にした雲母(マイカ)の表面を酸化チタンでうすくコーティングしたもの。アイシャドウなどのメイクアップ製品に広く用いられます。
真珠のような複雑な光沢は、光の屈折率の違いから来るもの。雲母チタンに光が当たったとき、雲母の光の屈折率が酸化チタンよりも低いため、屈折率の違う光が互いに干渉しあって真珠のような光沢が生まれます。光の色調は、酸化チタンの皮膜の厚さによって紫、青、緑、黄、赤などに調整できます。
化粧品における全成分表示では「雲母チタン」ではなく「酸化チタン、マイカ」と記載されます。全成分表示において、複数の原料からできている「複合原料」はそれに含まれる原料をバラバラに表示するよう定められているためです。
2)オキシ塩化ビスマス(BiOCl 表示名称:オキシ塩化ビスマス) 三塩化ビスマスを加水分解して作るウロコ状の結晶。雲母チタンに比べるとパール感が少なく、その代わりに金属のようなメタリック感があります。
比重が7.7もあり、ほかの原料とブレンドしたときに下に沈みやすく、耐光性も弱いという欠点があるため一時は使用量が減って雲母チタンが代わりに使われていました。ですが、メタリックな艶のあるメイクの流行とともに見直され、リップグロスやアイシャドウなどへの利用が再び増えてきています。
(2012年4月初出)