界面活性剤 その2

プラスにもマイナスにも傾きません
非イオン(ノニオン)性界面活性剤

水に溶けてもイオンにならず、プラスマイナスどちらにも帯電しないのが非イオン(ノニオン)性界面活性剤です。とても種類が多く、使い道もさまざま。イオンに分かれないのでどのような界面活性剤とも自由に組み合わせることができ、乳化剤、可溶化剤、増粘剤として、またマイルドな洗浄剤としても利用されます。

親油基(脂肪酸高級アルコールなど)の種類を変えたり、親水基(多価アルコールや酸化エチレン)の種類や結合の度合いを変えたりすることにより、親油性・親水性どちらの性質を強く持つものも合成できる利点があります。

化粧品によく使われる非イオン性界面活性剤には以下のようなものがあります。

1.多価アルコールエステル型
グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール(親水基)と脂肪酸(親油基)とをエステル結合させた界面活性剤です。

  1. 脂肪酸モノグリセリド

    化粧品にはモノステアリン酸グリセリンが主に乳化剤として古くから用いられている。これを使うとW/O型(油の中に水が散らばるタイプ)のエマルションができるが、O/W型(水の中に油が散らばるタイプ)の乳化剤と組み合わせるとO/W型エマルションも作れる。石鹸や親水性の非イオン性界面活性剤を配合した自己乳化型の脂肪酸モノグリセリドもある。
  2. プロピレングリコール脂肪酸エステル

    石油系の界面活性剤で、W/O型の乳化剤として利用される。これひとつだけだと乳化力が弱いが、O/W型乳化剤と併用するとさらりとよく伸びるエマルションが作れる。脂肪酸モノグリセリドと同じく、これにも自己乳化型のタイプがある。
  3. ソルビタン脂肪酸エステル

    乳化剤として使われる界面活性剤。これひとつだけで用いられることはほとんどなく親水性の界面活性剤と組み合わせることがほとんど。脂肪酸の種類によってさまざまなHLB値のものが作れる。

    ソルビタンはソルビトールというアルコールから水分子(H2O)が取れたもの。ヒドロキシル基(水酸基)を4個持っていて、ヒドロキシル基に脂肪酸が1個ついたモノエステル、2個ついたジエステル、3個ついたトリエステルの3種類が化粧品原料として利用される。親油性の強さはモノエステル <ジエステル<トリエステル、となる。4つ目のヒドロキシル基に脂肪酸がついたテトラエステルもあるが、これは親油性が強すぎるため化粧品原料にはほとんど使われない。< /li>
  4. ショ糖脂肪酸エステル

    人体にも無毒で無刺激とされ、食品添加物としても使われている界面活性剤。口紅、シャンプー、ハミガキなどに使われる。ショ糖とは砂糖の主成分で、ヒドロキシル基を8個も持っておりほかの多価アルコールに比べて親水性が強い。そのため、ショ糖脂肪酸エステルは脂肪酸の種類と結合モル数を変えることにより、親油性の強いものから親水性の強いものまで幅広く合成ができる。

    後に述べる酸化エチレン縮合物も親水性だが、ショ糖脂肪酸エステルは酸化エチレン縮合物と違って曇点(くもりてん)がないので温度によって乳化力が損なわれることがない。また、泡立ちも少ないのでクリームや乳液を作って容器に詰めるときに作業がしやすいというメリットもある。
  5. アルキルグルコシド

    分子構造の中に炭素が8~18個あるアルキル基を持つアルコールと、グルコースとの反応によってできる界面活性剤。泡立ちがよいのでシャンプーなどによく使われるようになってきた。人体に刺激が少なく、環境中で生分解されやすいといわれる。

2.酸化エチレン付加型界面活性剤
脂肪酸や高級アルコールなどの活性水素を持つ物質(親油基)に、酸化エチレン(親水基)を数モル~数百モルつなげて作る界面活性剤です。酸化エチレンは石油由来のナフサから精製したエチレンに酸素をつなげたもので、強力な殺菌剤としても知られます。また、PRTR法による第一種指定化学物質でもあります。

 親油基が植物性の脂肪酸やアルコールのものは「植物性乳化ワックス」などの名称で手作り化粧品用乳化剤として販売されたり、「自然派」化粧品の原料に使われたりしています。ですが、この界面活性剤の親水基を形づくる酸化エチレンは完全な石油由来物質です。そのような界面活性剤を「自然派」「植物性」と呼ぶのは適切ではありません。

  1. 高級アルコール酸化エチレン縮合物

    石油系界面活性剤のひとつ。一般にはポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)と呼ばれている。高級アルコールのうち、炭素を12~18個持つものに酸化エチレンをつなげたもの。つなげる酸化エチレンのモル数が多いほど水となじみやすくなる。PRTR法による第一種指定化学物質。

    高級アルコールと酸化エチレンは、化学的な性質が安定している。よって、このふたつの組み合わせは酸、アルカリ、加熱などの条件下でも加水分解されにくく一定の品質を長く保つことができる。化粧品の表示名称では「~レス」または「PEG」という文字が入っているものが多い(例外もある)。

    高級アルコール酸化エチレン縮合物の例
    もとの名称 表示名称
    ポリオキシエチレンオレイルエーテル オレス-○
    ポリオキシエチレンステアリルエーテル ステアレス-○
    ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル オクチルドデセス-○
    ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル オクトキシノール-○
    ※○:酸化エチレンがどのくらいつながっているか(重合度)を示す数字が入る
  2. 脂肪酸の酸化エチレン縮合物

    石油系界面活性剤のひとつで、クリーム乳液などの乳化剤として用いられる。脂肪酸に酸化エチレンをつなげたもので、一般的には「ポリエチレングリコール脂肪酸エステル」と呼ばれる。化粧品の表示名称では「PEG-○」という文字が入っているものが多い。

    ステアリン酸やオレイン酸といった親油基に酸化エチレン(親水基)を8~12モル付加すると、自分で自分を乳化するようになる(自己乳化性)。通常、油性原料と水性原料を乳化させるためには乳化剤のほかに強いかくはん力が必要だが、自己乳化性の強い乳化剤を使うとそれほど強い力を加えなくても乳化がおきやすくなる。酸化エチレンが20モル程度になると乳化する力は落ちるが、その代わりに可溶化力が強くなる。

    脂肪酸の酸化エチレン縮合物の例
    もとの名称 表示名称
    モノオレイン酸ポリエチレングリコール オレイン酸PEG-○
    モノステアリン酸ポリエチレングリコール ステアリン酸PEG-○
    モノラウリン酸ポリエチレングリコール ラウリン酸PEG-○
    ※○:酸化エチレンがどのくらいつながっているか(重合度)を示す数字が入る
  3. ソルビタン脂肪酸エステル酸化エチレン縮合物

    石油系界面活性剤のひとつ。乳化剤として利用されることが多いが、食品添加物として使われるものもある。植物由来の界面活性剤ソルビタン脂肪酸エステル(親油性)に酸化エチレン約20分子を結合させて親水性にしたものが代表的だが、酸化エチレンが20分子ではないものも多数ある。

    ポリソルベート○」や「Tween○」と表示されることが多い。現在化粧品に使われているのは○が20、21、40、60、61、65、80、81、85のもの。なお、20、60、65、80は2008(平成20)年より食品添加物になっている。なお、中には表示名称が「ポリソルベート」ではなく、「PEG-○ソルビタン」となるものもある。

    ソルビタン脂肪酸エステル酸化エチレン縮合物の例
    もとの名称 表示名称
    モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン ポリソルベート20
    モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン ポリソルベート60
    トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン ポリソルベート65
    モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン ポリソルベート80
    モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(6E.0.) オレイン酸PEG-6ソルビタン
  4. 脂肪酸アルキロールアミド

    石油系界面活性剤のひとつ。シャンプーの増粘剤や泡安定剤としてよく用いられる界面活性剤。少し配合するだけで強い粘りが出て泡が安定し、洗浄力も増す。乳化剤としてはほとんど利用されず、「洗う」ための製品に配合されることがほとんど。

    脂肪酸(親油基)とアルキロールアミン(親水基)がアミド結合してできる。このアミド結合はエステル結合より加水分解されにくく、一定の品質を長く保てる。脂肪酸(親油基)にはヤシ油脂肪酸、ラウリン酸、ステアリン酸などがよく使われる。アルキロールアミン(親水基)は酸化エチレンとアンモニアから合成される。化粧品原料としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミンが用いられる。表示名称は「~ミド」という形が多い。

    脂肪酸アルキロールアミドの例
    もとの名称 表示名称
    ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド コカミドDEA
    ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド コカミドMEA
    ラウリン酸モノイソプロパノールアミド ラウラミドMIPA
  5. ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体

    石油系界面活性剤のひとつ。酸化プロピレンをいくつもつなげたポリプロピレングリコール(親油基)に、酸化エチレン(親水基)をつなげてできたもの。ポリプロピレングリコールも酸化エチレンもつなげる分量を自由に変えることができるので親油性の強いものから親水性の強いものまでさまざまな性質のものを作りだすことができる。

    乳化力、可溶化力が優れているのでクリームや乳液作りに、また化粧水に香料や薬剤などを可溶化する目的でも使われる。ほかの界面活性剤に比べて分子量が大きいので角層に入り込みにくく、皮膚刺激は少ないといわれる。表示名称は「ポロキサマー○」という形。(例:ポロキサマー105、ポロキサマー124)

    ハミガキの発泡剤としても使われるが、この成分によってアナフィラキシーショックが引きおこされるケースが数件報告された。そのため、2003(平成15)年3月より、この成分を含んでいる医薬部外品(薬用ハミガキやマウスウォッシュ、薬用石鹸など)は容器に成分名を明記し、じんましんや息苦しさなどアレルギーに対する注意書きも表示することが義務化された。

今回はステロール類や脂肪酸エステル類、そして界面活性剤について見てきました。それにしても、界面活性剤の種類の多さには驚かされます。イオン性、非イオン性、石鹸、植物性、石油系...... そんな界面活性剤や界面活性剤入りの化粧品と上手に付きあうためにはどんなことに気をつければよいのでしょうか?

(2011年12月初出)

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