黒髪や金髪、赤毛や白髪... 世の中には本当にいろいろな髪色があります。その違いはどこから来るのでしょう。
毛髪の色を決めるのは、メラニン色素です。毛母に散らばるメラノサイトで作られたメラニン色素が、分裂中の毛母細胞に取り込まれて色がつきます。そしてそのメラニン色素の量と種類の違いが、毛髪の色の違いというわけ。
一般的に、毛髪の細胞にメラニン色素がたくさん含まれると毛は黒っぽく、少ないと黄色っぽくなります。そして1つの細胞に含まれるメラニン色素の量が同じなら、細胞の数が多い太い毛のほうが色も濃くなります。欧米人の毛髪は色が薄いことが多いのですが、これは彼らの毛髪が平均して東洋人の約2/3の太さしかないことも大いに関係しています。
メラニン色素には、黒っぽいユウメラニンと、黄赤系のフェオメラニンがあり、割合としてはユウメラニンが7割以上を占めます。毛髪にメラニン色素がたくさんあるときは、黒が勝つので毛髪の色も黒っぽくなります。反対にメラニン色素の全体量が少ないときは、ユウメラニンが多いとやや暗めの赤に、フェオメラニンが増えると黄色っぽくなります。
毛母に存在するメラノサイトは、加齢やストレスの影響を受けると、はたらきが悪くなったり、数が減ったり、突然細胞が消えてしまったりします。そうなると、もう毛髪に色を付けることはできません。これが白髪のできる理由です。
毛髪はお肌よりも物理的・化学的な刺激に強く、弾力性があってしなやかです。これは、毛髪が、約18種類のアミノ酸が結合した硬ケラチンでできているから。硬ケラチンは線維性のタンパク質で、その中にシスチンというイオウ含有量の高い丈夫なアミノ酸を16%も含みます。皮膚の角質層にも軟ケラチンというものが含まれますが、こちらはシスチンをわずか3%しか含んでいません。この違いが、質感や強さの違いにつながっているのです。
濡れ髪のまま寝たら、翌朝ひどい寝ぐせが! とか、雨の日はどんなにしっかりスタイリングしてもすぐ崩れてしまう...とか。だれでも1度くらいは経験ありますよね。この、困った現象はなぜ起こるのでしょう?
そのヒミツは、毛髪の成分ケラチンの構造にあります。ケラチンはアミノ酸分子がいろいろな形で結合してできていますが、そのうちのひとつ水素結合は水に濡れると簡単に切れ、乾くとまたつながるという性質があるのです。
朝の寝ぐせは、シャンプーで切れた髪の水素結合が寝ているあいだに変な形のままつながってしまったのが原因。雨の日にスタイリングが崩れるのも、空気中の水分がブローでつなぎ直された水素結合を切り、本来の髪のクセに戻してしまうからです。
そのほかの結合には、シスチン結合(ジスルフィド結合)、塩(えん)結合(イオン結合)、ペプチド結合などがあります。これらの結合が色んな形で組み合わさってその人独特の毛髪のクセを形づくっているわけです。では、これらの結合にはどんな性質があるのでしょう。
まずシスチン結合ですが、これは熱に弱いという性質があります。ドライヤーの熱風を当て続けたり、ヘアアイロンを愛用したりすると髪が傷みがちになるのはこのため(注1)。そしてpH12以上の強アルカリにさらされても切れてしまいます。このシスチン結合は水素結合と違って、1度切れたら自然には元に戻りません。
塩結合もアルカリに弱く、pHが5.5から上になるほど切れやすくなります。でも、通常の毛髪のpH(4.5~5.5)に戻ると、自然に再結合します。ペプチド結合はかなり強力で、水や少々の酸・アルカリにも耐えることができます。
このように毛髪のアミノ酸には色々な結合の仕方があるのですが、その性質を利用し、結合をあえて切る毛髪のおしゃれ技術があります。何だと思いますか?
それは、パーマ。パーマはロッドで髪を巻き、そこへアルカリを作用させて髪をふやかし、薬品がしみ込みやすい状態にします。そしてそれと同時に還元剤(チオグリコール酸塩やシステインなど)を髪にしみ込ませてシスチン結合や塩結合をカット。このとき、ある程度熱をかけて反応を促進することもあります。そして、そのあとに酸化剤(過酸化水素水や臭素酸塩など)を振りかけると、1度切れた結合がロッドに巻かれた髪の形のまま再結合。これがパーマの原理です(注2)。
分子の結合を無理やり切ったりつないだりするので毛髪のタンパク質を構成するアミノ酸組成が変わってしまうし、中には結合状態に戻れず切れたままになる分子もあります。この原理が変わらないかぎり、どんなに「髪にやさしい」と謳われているパーマでもある程度髪が傷むのは避けられないということです。
一見とても強いようで、実は結構デリケートな一面も持っている。そんな毛髪の健康を守るためにはどんなお手入れがベストなのでしょう。たとえばヘアケアの基本・シャンプー。なにを選んでどんな風に洗えばよいのか、この辺でちょっとおさらいしてみましょう。
注1 ケラチンは通常、150℃以上の高温にさらされ続けるとシスチンが減ってケラチンも変質する。ただし、毛髪が濡れてふやけた状態だと、55度くらいの低い温度でも変質が始まる。
注2 アルカリ剤を使った一般的なパーマの場合。最初の処理に酸性や中性の液を使うタイプのパーマもある。
(2009年7月初出)