ヘアスタイルを整えたり、マスカラで目を演出したり、ネイルカラーで指先を彩ったり... 毛や爪は、その人の印象を左右する大切なお洒落ポイントですよね。でも、それらはもともと何のためにそこにあるのでしょう? ここでは、まず毛髪について解説していきます。
髪の毛(頭髪)と、それ以外の体毛をまとめて毛髪と呼びます。毛髪は表皮が変形してできたとされる「皮膚の付属器官」のひとつ。専門用語では「角質器」とも言われます。
毛髪の主な仕事は、体をガードすること。頭を少々ぶつけてもケガをしないのは髪がクッションになってくれるからだし、眉毛やまつ毛は目に異物が入りにくいよう守ってくれています。そのほか、髪がそよぐことで「あ、風だ」と気付く...という感覚器的な役割もあります。
毛髪には赤ちゃんのうぶ毛のようなものから、カミソリの刃をすり減らす剛毛まで、さまざまな種類があります。これらのうち、硬さがあってツンツンした感じの毛を硬毛、それ以外の柔らかい感触のものを軟毛と呼び分けています。
硬毛は髪の毛やまつ毛、まゆ毛、男性のヒゲなど、体の一部に生えることが多く、主に体を保護するようなはたらきをしています。一方、軟毛はほぼ全身に生えているので数はとても多いのですが、特に体をガードしたりはしません。ただ、思春期になると一部の軟毛が硬毛に変わることがあります。具体的には脇毛や陰毛、男性のひげや胸毛、すね毛など。これは第二次性徴を迎えて分泌が増えた男性ホルモンの影響です。
硬毛は、さらに長毛と短毛に分けられます。長毛は頭髪やひげ、脇毛や陰毛など長さ1cmより長いもの。そして短毛はまつ毛、眉毛、鼻毛など、基本的に長さが1cmまでのものを指します。
毛髪は、手のひらや足の裏、唇や陰部の一部を除いた体全体に生えています。今、私たちの体に生えている毛の大部分は軟毛ですが、大昔は人間も体中が硬毛でおおわれていました。そしてケガや寒さから身を守ったり、猫のヒゲのような感覚器として役立ったりしていました。進化の過程でそのような機能は衰えましたが、頭や目など大事なところは今でも硬毛が守ってくれているのです。
1本の毛髪のうち、毛穴から上に出ている部分を毛幹(もうかん)と言います。ここを私たちは「毛」として認識し、切ったりカールさせたりするわけです。が、皮膚の下にも毛髪は続いていて、その部分は毛根と呼ばれます。
毛根は、皮膚の中で毛包という器官にすっぽりと収まっています。毛包は、表皮が真皮方向に斜めに伸びてできた細長い袋のようなもので、ほぼ全身に分布しています。この毛包の数は、生まれてから死ぬまでずっと変わりません。人の毛髪はおよそ120~150万本(注1)。通常は「毛包1つにつき毛髪1本」なのですが、たまに1つの毛包から2本以上の毛が生えることもあるので、毛髪より毛包のほうがやや少ないことになります。
毛根の根元は、毛包の底から真皮が上向きに突き出た毛乳頭を包み込んでいます。ここはボールのようにふくらんでいるので毛球(もうきゅう)と言い、毛根と毛乳頭が接する部分は毛母(もうぼ)と呼ばれます。
毛乳頭は、毛髪の成長のカギを握るとても大切な存在。というのも、毛髪が伸びるのは毛母にある毛母細胞が分裂して増え、その細胞分裂の指令を出すのが毛乳頭だからです。おまけに、そのとき必要な栄養や酸素を運んでくれるのも毛乳頭にある毛細血管。ちなみに毛乳頭には血管だけでなく神経もあって、だから毛を抜くと痛いんですね。
毛包は毛髪のほかにも色々なものと接しています。まずは皮脂腺。これは毛包の上1/3くらいのところにありますが、ここで分泌された皮脂が汗と混ざりあって皮脂膜となり、お肌や毛髪の保護・保湿をしています(詳しくは「皮脂膜とお肌の保護」参照)。また、毛包の下1/3くらいのところには立毛筋が。これは一種の筋肉で、寒さや恐怖、驚きなどを感じるとキュッと縮んで鳥肌を立てます。ワキの下などにある毛包には汗腺の一種アポクリン腺もくっついています。
注1 頭髪は約10万本くらいと言われるが個人差が大きく、少ないと7万本、多い人だと14万本くらいある
次のページでは、毛髪の色と成分についてご説明します。
(2009年7月初出)