出産前後、女性の体は激しく変化します。産後1~2ヶ月の頃から大量に毛髪が抜け始める「産後脱毛症」もそのひとつ。これは、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が原因です。
妊娠しているあいだ大量に分泌されるエストロゲンには、成長期の毛髪が休止期に移るのを抑える作用があります。このため、妊娠中、特に妊娠後期は通常10~15%はあるはずの休止期毛がわずか5%程度に減り、抜け毛も少なくなります。そして出産が済んでエストロゲンの分泌量が元通りになると、それまで休止期に入るのが遅れていた毛髪が一気に休止期へ移行。そのために、抜け毛が増えてしまうのです。
この脱毛は、通常、出産後半年くらいで治まります。人によっては脱毛があまり目立たなかったり、期間が短かったりすることも。ただ、ごくまれに、髪の量が元に戻らず薄毛になってしまうケースもあるので、いつまでも脱毛が治まらないときは、皮膚科を受診しましょう。
ピルの服用中止によっても、同じような脱毛が起こることがあります。ピルにはエストロゲンが含まれていて、妊娠中と同じように髪の毛に影響を与えるからです。
気がついたら、髪の毛が束になって抜けていた。これが円形脱毛症です。1カ所だけでなく、何カ所か同時に抜けることも。脱毛以外の症状、たとえば痛みやかゆみなどは出ないことが多いため、他人に指摘されて初めて気付くこともあります。
円形脱毛症の直接的な原因は、毛根への血流低下。そうなると、毛母細胞は血液から栄養を充分にもらえず、髪の毛を作るための細胞分裂がスムーズにできません。その結果、毛髪は根元からやせ細って抜けてゆきます。このような毛髪を栄養障害毛といいます。健康な髪の毛とは違って根元が細く感嘆符(!)に似ているので「感嘆符毛」と呼ばれることもあります。
円形脱毛症は、大体3~6ヶ月くらいで治まることが多く、小さなものであれば自然治癒するケースが6割くらいです。ただ、進行して脱毛が広がり深刻化するケースもありますから、心配なら皮膚科の専門医に診てもらうのがよいでしょう。
円形脱毛症がなぜ起こるのかは、まだ完全に分かっていません。いくつかの説を以下にご紹介しましょう。
まず、「精神的ストレス」説。ストレスが、毛根周辺および毛乳頭の毛細血管に影響して血行を悪くする、というものです。次が「自己免疫」説。体の免疫システムが、自分の毛母細胞を異物と勘違いし、リンパ球が攻撃してしまうというもの。アレルギーの一種という考え方ですね。最後は「末梢神経の異常」説。毛球周辺あるいは頭部の神経が麻痺したり緊張したりすると、毛根の血流が悪くなる。それが脱毛の原因だという説です。
これらに共通するキーワードは「ストレス」。免疫異常にしても神経の緊張にしても、ストレスで悪化するのは明白です。お肌と同じく髪にとっても、ストレスは大敵なのですね。
次のページでは、もっとも悩んでいる人が多そうな男性型脱毛症についてご説明します。
(2010年4月初出)