保湿剤

お肌のうるおいを助ける保湿剤
雑菌対策ができるマルチ派も

美肌の条件のひとつが、うるおい。十分にうるおったお肌はツヤがあってとてもキレイです。

通常、お肌への水分補給は私たちの体自身が行ってくれます。でも、洗顔や乾燥した空気などによって皮脂や保湿成分が奪われすぎると、内側からのうるおいだけでは間に合わないこともあります。そんなときに頼りになるのが、化粧品。お肌に水分を補給するのは化粧品にとって重要な仕事のひとつなんです。

肌や毛髪からの水分蒸発をセーブして乾燥を防いだり、化粧品から水分が失われるのを防いで品質を保ったりするために配合される成分は保湿剤と呼ばれます。保湿剤として主に採用されるのは、周囲の環境(空気中)から水分を取りこむ性質がある水溶性の成分です。

洗顔後に化粧水を肌に付けるのは、保湿剤をお肌に付けることだともいえます。洗顔によって保湿成分を失ったお肌にただの水を塗っても、その水が蒸発してしまうとまた乾燥状態に逆もどり。内側からのうるおい補給が元にもどるまで、お肌は乾いたままです。これが保湿剤入りの水(≒化粧水)だと、水分がお肌から蒸発しても保湿剤が残ります。その保湿剤が空気中の水分を捕まえてお肌に届けたり、お肌の中の水分や保湿成分が外に出てゆかないようガッチリ掴んで引きとめたりしてお肌のうるおいを保ってくれるんです。

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では、お肌をしっとりさせるために保湿剤の量は多ければ多いほどよいのかというと、実は、そうではありません。保湿剤はほかの原料との兼ね合いをよく考えて量や種類を決めないと十分に機能できないばかりか、逆に乾燥を招いてしまうこともあるんです。これは保湿剤に限った話ではないのですが、要はバランスが大事なんですね。手作り化粧品を作るときにも気をつけておきたいことです。

保湿剤として化粧品にもっとも多く使われているのは多価アルコール類です。古くから利用されているのはグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ソルビトールなど。多価アルコールのほかにはNMF(natural moisturing factor/天然保湿因子)の成分であるピロリドンカルボン酸塩や乳酸塩、尿素やヒアルロン酸ナトリウムなども保湿剤になります。

化粧品に使われる代表的な保湿剤には以下のようなものがあります。

1.グリセリン(CH2OH・CHOH・CH2OH 表示名称:グリセリン)
安い・変質しにくい・皮膚刺激がないと三拍子揃った、もっともよく使われている保湿剤。お肌の保湿のほか、クリーム、乳液などの乳化製品に配合して製品から水分が逃げるのを抑えることもできます。製品の粘り気を適度に保つ、製品の使用感を丁度よいところに調整するなどのはたらきもあります。

グリセリンは動植物油を鹸化(けんか)して石鹸を作るときに副生成物としてできます。石油化学合成によっても作ることができますが、現在化粧品で使われているのは植物油から作ったものや、石鹸を作るときの副生成物としてできるものがほとんどです。

欠点は、ほかの多価アルコールよりもまわりの湿度に影響されやすいこと。湿気の多い梅雨や夏には水分を引きよせすぎてべたつき、空気が乾く冬には水分を引きよせる力が極端に落ちて保湿剤の役目を果たせないこともあります。

2.プロピレングリコール(CH3CHOH・CH2OH 表示名称:PG)
抗菌作用がある保湿剤として古くから重宝されてきました。プロピレンクロルヒドリンの加水分解や酸化プロピレンに水分子が結合することによりできます。旧表示指定成分のひとつということもあり、現在では1,3-ブチレングリコールのほうがよく使われるようになりました。

3.1,3-ブチレングリコール(CH3CH(OH)CH2CH2OH 表示名称:BG)
グリセリンに次いでよく使われる保湿剤。グリセリンよりもサラッとしていて吸湿性がゆるやか。皮膚への刺激や毒性が少なく、使いやすい保湿剤です。グリセリンと比べて、まわりの湿度に吸湿能力が左右されにくいのも大きな特徴です。

従来はアセトアルデヒドのアルドール縮合物に水素を添加(還元)して作ることが多かったのですが、トウモロコシなど植物デンプン由来のものも新しく登場しています。ある程度の抗菌性も備えていますが、BGだけで雑菌対策をしようとすると全体の20%以上の濃度が必要です。ここまで濃いと肌に塗ったときにベタ付いて使用感が悪くなるため、BGはベタ付かない程度の濃度に留めてほかの抗菌剤やエタノールを併用するのが一般的です。

植物エキスの抽出にも使えます。抽出溶媒としてはアルコールが一般的ですが、アルコールはお肌に刺激になることがあります。そのため、アルコールフリーの化粧品に植物エキスを配合したいときには、BGで抽出したエキスがよく使われます。

4.1,2-ペンタンジオール(CH2(OH)CH(OH)CH2CH2CH3 表示名称:ペンチレングリコール)
合成の多価アルコール。保湿剤としてのほか、抗菌力のある溶剤としても重宝されます。BGよりもはるかに低濃度(5%以下)で抗菌力を発揮し、旧表示指定成分である抗菌剤パラベンを配合しない「ノンパラベン化粧品」によく使われています。

5.1,2-ヘキサンジオール(CH2(OH)CH(OH)CH2CH2CH2CH3 表示名称:1,2-ヘキサンジオール)
別名ヘキシレングリコールとも呼ばれる合成の多価アルコールです。保湿剤としてのほか、抗菌力のある溶剤としてもよく利用されます。BGよりも はるかに低濃度(2%以下)で抗菌力を発揮するので、1,2-ペンタンジオールと同じく「ノンパラベン」を謳う化粧品によく配合されます。

6.ポリエチレングリコール(HOCH2(CH2CH2O)nCH2OH 表示名称:PEG)
水またはエチレングリコールに酸化エチレンを付け加えて作ったもの。酸化エチレン(CH2CH2O)の結合数(上記分子式の「n」の数)によって性質や形が違います。化粧品に使われるのは酸化エチレン数が3~400,000のものです。nの数(=酸化エチレンの数)が12までだと液体状。それ以上はnの数が大きくなるにつれて固形に近づき、水にも溶けにくくなってゆきます。平均分子量が600以下のものは旧表示指定成分です。

7.ソルビトール(CH2OH(CHOH)4CH2OH 表示名称:ソルビトール)
ブドウ糖またはショ糖を還元して作られる、白色無臭の6価アルコール。リンゴやモモ、ナナカマドの果汁など植物中にも広く存在します。化粧品原料としては主に70%水溶液が保湿剤として利用されています。

8.マルチトール(C12H24O11 表示名称:マルチトール)
マルトース(麦芽糖)を還元して作る糖アルコールの一種。マルチットとも呼ばれ、加工食品やダイエット甘味料などにも利用されます。マルトースと違って微生物の影響を受けず、耐熱・耐酸性にも優れ、製品が変色する一因であるアミノカルボニル反応も起きません。グリセリンやソルビトールと比べ、まわりの湿度にあまり影響されない点も保湿剤として優れています。

9.dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム(C5H6NNaO3 表示名称:PCA-Na)
グルタミン酸から水が取れてできるdl-ピロリドン-5-カルボン酸に、ナトリウムが結合してナトリウム塩になったもの。2-ピロリドン-5-カルボン酸ナトリウムとも呼ばれます。お肌の角質層中にNMFの吸湿性成分として存在することが確認されてから、化粧品の保湿剤として広く用いられるようになりました。ナトリウム塩のほか、カリウム塩、トリエタノールアミン塩も用いられています。ちなみに、ナトリウムの結合していないピロリドンカルボン酸の状態(遊離酸の状態)だと吸湿性はほとんどありません。

10.乳酸ナトリウム(CH2(OH)CHCOONa 表示名称:乳酸Na)
ピロリドンカルボン酸と同じく、角質層のNMF中に存在する重要な天然の保湿剤です。化粧品原料としては、50~80%の水溶液がよく使われます。一般の多価アルコールに比べて吸湿性が高いのが特徴。

11.ポリグリセリン(表示名称:ポリグリセリン)
硫酸などの脱水剤によって水分子を取り除かれたグリセリンがいくつも結合したものです。化粧品原料として一般的に利用されるのは、グリセリンの結合数2個のジグリセリンから10個のデカグリセリンまで。もっとたくさん結合したものもありますが、(30個結合したトリコンタングリセリンまで)、結合数11以上のポリグリセリンは化粧品原料としては使われていません。

12.ヒアルロン酸ナトリウム(表示名称:ヒアルロン酸Na)
ヒトの真皮にも存在するグリコサミノグリカンのひとつ、ヒアルロン酸にナトリウムが結合したもの。哺乳動物の皮膚や大動脈などに多く含まれます。ほかの保湿剤はまわりの湿度が下がると吸湿性も下がりますが、ヒアルロン酸ナトリウムはそのようなことがなく、常に優れた吸湿性を保ちます。

昔は鶏冠(鶏のトサカ)から抽出していたので高価でしたが、2000年代以降は乳酸菌や連鎖球菌など微生物から大量に作れるようになり、コストが下がって気軽に使えるようになりました。ヒアルロン酸はお肌の中(真皮中)に存在しますが、一般的な化粧品に配合されているヒアルロン酸ナトリウムは分子数が大きい(高分子)ため、お肌にしみ込むことはほとんどありません。

13.トリメチルグリシン(C5H11NO2 表示名称:ベタイン)
砂糖大根(テンサイ)に含まれるグリシンという成分にメチル基(CH3)を3個結合させて作る保湿剤。生き物の体の中に広く分布し、優れた保湿性があります。皮膚への刺激はなく、皮膚や毛髪をうるおして柔らかくする作用があります。とにかく吸湿性が高いのが特徴で、空気中に出した瞬間から湿気を吸ってあっという間にベタベタになります。手作り化粧品などで利用するときはできるだけ手早く作業しましょう。

●保湿剤の配合目的と効果効能

  1. 皮膚や毛髪から水分が蒸発するのを抑えて乾燥を防ぐ
  2. 化粧品から水分が蒸発するのを防ぐ
  3. 低温になったときの凍結防止(多価アルコール類は不凍液の原料になる)
  4. 雑菌の活動を抑える(静菌作用)、香料の香りを長く保つなどのはたらきを兼ねることもある

(2012年4月初出)

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